香料素材

【3大フローラル】透明感溢れる清楚な香りミュゲ

かよこ

今までに3大フローラルの2つ、「ローズ」と「ジャスミン 」に関して知ることが出来ました。でも、3大フローラルのもう1つの『ミュゲ』って何ですか?あまり聞いたことのない花の名前なんですけど・・・。

シゲ

こんにちは!! 香料研究者のシゲです。
今回も花の香りの中で香水や日用品に頻繁に使用されている『3大フローラル』に関してお話しします。

花の香りは多種多様ですが、香水や日用品の香りとして主に使用されるのは『3大フローラル』なので、まず初めにこれらの特徴を覚えてしまいましょう。『3大フローラル』を理解していれば、ほとんどの香水や日用品の香りを評価出来る様になります!!

最後は、清潔感溢れるホワイトフローラル『ミュゲ』の香りについてです。ミュゲは洗剤や柔軟剤などの日用品で清潔感を香りで表現するために頻繁に使用される香調なので一緒に覚えましょう。

3大フローラル 『Muguet (スズラン、ミュゲ)』

フローラル香は花様の柔らかさと甘さのある香りで、Rose(ローズ、薔薇), Jasmine(ジャスミン), Muguet(スズラン)が『3大フローラル香調』と呼ばれ、香水や日用品の香りとして多用される香調です

女性が好きな華やかな香りと言えば薔薇、そして豊潤な甘さで魅力的なジャスミンがあります。一方でミュゲは、爽やかで瑞々しい透明感溢れるホワイトフローラルの香りです。ジャスミンの様な重厚で豊潤な甘さがある香りでありませんが、ホワイトフローラルの繊細な甘さと葉や茎を想起させるグリーン様の爽やかな印象が強く感じられます。薔薇やジャスミンと比べると特徴が弱く感じてしまいますが、衣料用洗剤などの洗い上がりの清潔感を出すにはミュゲの香りが必須となります。

Muguet (スズラン、ミュゲ)

『Muguet (スズラン、ミュゲ)』は、ユリ科植物の中でも優れた香気を有する重要植物の1つです。多年草で4~6月頃にかけて花茎の片側に寄せて香り高い純白色の釣鐘型の花をまばらに咲かせます。その可憐な見た目とデリケートな芳香は古くから世界中の人々に親しまれてきました。スズランが一般的な呼称ですが、「君影草」や「谷間の姫百合」といった和名もあります。香料業界では、フランス語の「Muguet (ミュゲ)」や英語の「Lily of the Valley (リリー・オブ・ザ・バレイ)」で呼ぶことや香調を表現することが多いです。ミュゲは、フランスでは結婚式で花嫁に贈られる風習があります。また、メーデーにミュゲの花を贈り合うこともあります。ミュゲはフィンランドの国花でもあり、フィンランド語では「Kielo」と呼ばれます。この様に、ミュゲは欧州の文化とも密接な関係にある花です。

Muguet

Muguet (スズラン、ミュゲ)
分類 : スズラン亜科スズラン属 (ユリ科の場合もあり)
品種 : Convallaria majalis L., Convallaria majuscula
産地 : ドイツ、イギリス、アメリカ、日本にも生息
種類 : エッセンシャルオイル (産業上の利用はほぼない)
成分 : Linalool, Citronellal, Geraniol, cis-3-Hexanol

実は、ミュゲは毒を持っています。配糖体であるコンバラトキシン(Convallatoxin)が毒性成分の1つで、花だけではなく根にもミュゲの毒は含まれています。実際、ミュゲは毒を全身に持っている有毒植物なので、花に直接触れたり花瓶の水の手入れの時には注意して取り扱う必要があります。

Muguet (スズラン、ミュゲ)の種類と産地

北半球に生息するミュゲは、スズラン(Convallaria keiskei Miq.)とアメリカスズラン(Convallaria majuscula Greene)とドイツスズラン(Convallaria majalis L.)の3種類がある。日本で見られるのは一般的なスズランで、北海道から九州まで広く分布している。しかしながら、芳香を有するものの香気はそれほど強くはない。香料的な立場から見ると最も重要なのは、欧州を中心に生育するドイツスズランです。ドイツスズランは欧州の中部から北部にかけて生育し、純白な大型の花を咲かせるので芳香が良く、一般的なスズランよりも香気が強く感じられます。そのためドイツの他にイギリスや南フランス、スカンジナビア地方などでも栽培されています。

Lily of the Valley
Muguet (スズラン、ミュゲ)の種類
  • スズラン : Convallaria keiskei Miq.
    日本、東シベリア、中国などに広く分布されている
    芳香を有するが、香気はそれほど強くはない
  • アメリカスズラン : Convallaria majuscula Greene
    北アメリカ東部のアパラチア山脈一帯で生育
    芳香を有するが、香気はそれほど強くはない
  • ドイツスズラン : Convallaria majalis L.
    ドイツや南フランス、スカンジナビア地方で栽培
    芳香が良く、香気も強いので香料として有用

Muguet (スズラン、ミュゲ)の精油と香気成分

ミュゲは広く栽培されているが、花精油は非常に高価で採油率も低いので産業上の利用はほとんど行われていません。3大フローラルの中で唯一、ミュゲだけが精油を香水や日用品に利用出来ない花なのです。最も一般的な水蒸気蒸留法では精油はほとんど得られず、溶媒抽出でもわずか1%程の収率でコンクリートが得られるのみでした。そのため、ミュゲは天然精油の利用という点では薔薇やジャスミンと比べて不十分なことから精油の取り扱いがほとんどないのが現状です。

『Muguet (スズラン、ミュゲ)』の香りは極めて重要でありながら、香気成分に関する知見は薔薇やジャスミンと比較して非常に少ない。いくつかの研究から様々な香気成分が検出・報告されています。しかしながら、薔薇やジャスミンの香りの様に際立った特徴的な香気成分があるわけではありません。様々な香気成分がバランス良く含有されていることで、ミュゲの透明感のある繊細なホワイトフローラル香が感じられるのです。
例えば、ミュゲの繊細で清潔感のある花様の柔らかい香りはLinalool, Linalyl Acetateが寄与していると思われます。また、薔薇にも含まれるPhenyl Ethyl Alcohol, Geraniolやジャスミンに含まれるBenzyl Acetateがミュゲの花様の甘くて柔らかい華やかな香りを補強しています。ミュゲの特徴でもあるトップノートの爽やかな印象は、cis-3-HexanolやCitronellalが含まれていることでGreen, Citrus様のフレッシュさを感じることが出来るためだと考えられています。

Muguet (スズラン、ミュゲ)の香気成分
  • Linalool, Linalyl Acetate, Benzyl Acetate
    ホワイトフローラル様の甘さと柔らかさのある香り
    ミュゲの特徴となる繊細、清潔感、柔らかさを表現
  • Phenyl Ethyl Alcohol, Geraniol, Citronellol
    ローズ様の華やかで蜜様の甘さがある香り
    ミュゲのフローラル香の輪郭をはっきりさせる働き
  • cis-3-Hexanol, Citronellal, Citral
    Green, Citrus様のフレッシュで爽やかな香り
    ミュゲのトップノートにGreenな爽やかさを付与

Muguet (スズラン、ミュゲ)の香料用途 ~合成香料~

『Muguet (スズラン、ミュゲ)』は天然精油の利用という点では薔薇やジャスミンに比べてかなり不十分ではあるが、化学的にミュゲの香気を再現する合成香料の開発については多くの香料会社が研究を進めてきた。現在も香料会社の関心の大きな分野で、新しいミュゲ香調を持つ香料素材の開発に関しては各社が勢力的に取り組んでいます。ミュゲ香調の素材は、新規香料用途としての特許取得や自社調合香料のみに活用するCaptive使用も多く、今後も香料業界の技術開発の中心となる分野の1つです。

代表的なミュゲ香調の合成香料素材は下記の様な素材があります。

素材名提供香料会社CAS No.
LILIAL (Lysmeral)BASF, Kalama80-54-6
LYRALIFF31906-04-4
Myrac AldehydeIFF52474-60-9
FlorhydralGivaudan125109-85-5
Florol (Pyranol)BASF, Firmenich, Givaudan63500-71-0
LinaloolBASF, DSM78-70-6
シゲ

香料会社の持つMuguet香調の合成香料とその開発に関しては、かなりのボリュームになるので別の記事にてご紹介させて頂こうと思います!!

Muguet香調の香水

ミュゲの香りを特徴とした香水や日用品は非常に多くありますが、代表的な香水をいくつか紹介します。ミュゲはフレッシュでホワイトフローラルの繊細な花の甘さを有する香りですが、トップノートは少しグリーンな印象が強く感じられるので人に寄って好みがあるかと思います。自分の好みに合ったミュゲの香水があったら肌に乗せて試してみましょう!!

Diorissimo (Christian Dior)

Diorissimo_Dior

香水名 : Diorissimo (ディオリッシモ)
会社 : Christian Dior (ディオール)
調香師 : Edmond Roudnitska (エドモン・ルドニッカ)

ミュゲの香水と言えば、この名香『Diorissimo (ディオリッシモ)』です!!亡くなられたダイアナ妃が愛用していた香水としても非常に有名になりました。

女性的な柔らかさがあり、甘さは控え目で非常に清々しい香りです。トップノートはベルガモット様の高級感のあるシトラス-グリーン香調から始まり、徐々にグリーン様の香りと合わさる形でミュゲの柔らかくも清潔感溢れるフローラル香調が現れます。ミュゲの香りにジャスミンの甘さ、ライラックの蜂蜜の様な涼やかな甘さが加わることで香りに奥行きとボリュームを与えてミュゲの香りを最大限に引き出しています。最後は、ボトムノートのサンダルウッド(白檀)の濃厚な甘さとムスクの肌に残る滑らかな高級感がこの名香の香りを完結させてくれます。

ミュゲの清涼感と清潔感のあるグリーンな香りのニュアンスが煌びやかに表現されている反面、暖かな陽光の様な優雅で女性的なホワイトフローラルの甘さがしっかりと感じられます。まるで、生花のようにリアルなミュゲの香りを楽しめます。Diorとエドモン・ルドニッカ氏が共同制作したDiorissimo (ディオリッシモ)は、香水としての高い完成度や使い心地も良く、まさに名香と呼ばれるに相応しい逸品です。

Lily of the Valley (Penhaligon’s)

Lily of the Valley_Penharigon's

香水名 : Lily of the Valley (リリー・オブ・ザ・バレイ)
会社 : Penhaligon’s (ペンハリガン)
調香師 : Michael Pickthall (ミカエル・ピクサール)

続いては、ペンハリガンのLily of the Valleyです。ペンハリガンは、1870年に理髪師のウィリアム・ペンハリガンが創設したイギリスの老舗メーカーで、その独創的な香水作りが高く評価されて『英国王室御用達理髪師 兼 香水商』の称号を持っています。

ペンハリガンのLily of the Valleyは『永遠の愛』がテーマの香水です。トップノートは柑橘系のベルガモットが爽やかさを、レモンが酸味を付与してゼラニウムが薔薇とハーバルな華やかさを演出しています。メインはミュゲの繊細で柔らかなホワイトフローラルの甘さがゆっくりと広がり、ジャスミンが草の葉に似た洗練されたセンシュアル感を付与してローズとイランイランが優美で華やかな甘いエキゾチックな印象を与えてくれます。最後は、オークモスの森の地面に生える苔の苦みを、サンダルウッド(白檀)がミルキーな甘さと柔らかな肌触りを演出してくれます。

ミュゲの繊細で清潔感のあるホワイトフローラルの甘さやグリーンな青さも全てを表現したクラシカルなフローラル香です。複雑な香りの様で、生花の様なとてもナチュラルな天然のシングルフローラルの香りにも感じられる不思議な香水です。ペンハリガンの世界観で再現されたパーフェクトなミュゲの香りの香水で、グリーンとホワイトフローラルの清潔感を前面に出しつつ、不思議な程にしっとりと女性的な印象に仕上がっています。

Mughetto (Santa Maria Novella)

Mughetto_Santa Maria Novella

香水名 : Mughetto (ミュゲ)
会社 : Santa Maria Novella (サンタ・マリア・ノヴェッラ)
調香師 : 不明

イタリアにある世界最古の薬局としての歴史を持つサンタ・マリア・ノヴェッラが手掛けた香水『Mughetto』も非常に人気が高いミュゲ香調の香水です。サンタ・マリア・ノヴェッラは『王妃の水』とも呼ばれ、全て天然香料素材をベースに作られた心にも体にも優しい香水として知られています。

香りはシングルフローラルなので、トップノートからラストまで全てミュゲの香りです。ミュゲの清楚で華やかなホワイトフローラルの甘さと、陽光と爽快感溢れる草原の風が感じられる鮮やかなグリーンの香りが爽やかに颯爽と広がっていきます。生花の様なエグ味のあるリアルなミュゲの香りで、エッセンシャルオイルの様な力強さと天然っぽさが非常に魅力的な香水です。癒やしのために生まれた『香りの芸術』とも言える香水は、長い年月を超えて今なお多くのセレブリティに愛されています。

Muguet (Guerlain)

Muguet_Guerlain

香水名 : Muguet Millesime 2018 (ミュゲ 2018)
会社 : Guerlain (ゲラン)
調香師 : Thierry Wasser (ティエリー・ワッサー)

世界中の女性が憧れるミュゲ香水の代表は、ゲラン社から毎年4月に発売されている『Muguet』です。フランスでは、5月1日は「すずらんの日」とされ、大切な人にミュゲを贈るとその人は幸せになるという言い伝えがあります。フランスの伝統文化に合ったゲランミュゲの香水は毎年多くの人が楽しみにしている名品の1つです。
ゲランの香水を作る調香師は皆が『ゲラン』と呼ばれ、代々受け継がれてきました。しかしながら、このゲランミュゲを作った調香師ティエリー・ワッサー氏は天賦の才能を持つ調香師として初めてゲランの一族以外から選ばれました。

天賦の才能を持つ調香師ティエリー・ワッサー氏が作ったゲランミュゲですが、ホワイトフローラルとグリーンの香りが、甘く華やかで清潔感のある奥深いフローラルの香りの印象を与えてくれます。ミュゲの香りにローズとジャスミンを絶妙に組み合わせることで、フローラルのボリュームと華やかさを演出しておりゲランらしい非常に高級感のある香水です。毎年発売されるのが非常に楽しみな逸品です。

まとめ

Muguet (スズラン、ミュゲ)
  • 3大Floral香(Rose, Jasmine, Muguet)の1つ
  • ホワイトフローラルの代表で、清潔感と透明感のある清楚な香り
  • Muguet (スズラン、ミュゲ)
  • 分類 : スズラン亜科スズラン属 (ユリ科の場合もあり)
  • 品種 : Convallaria majalis L., Convallaria majuscula
  • 産地 : ドイツ、イギリス、南フランス、アメリカ、日本にも生息
  • 種類 : エッセンシャルオイル (産業上の利用はほぼない)
  • 成分 : Linalool, Citronellol, Geraniol, cis-3-Hexanol
  • 香水、日用品はミュゲの香りを再現するために合成香料を使用
カヨコ

ミュゲの香りってホワイトフローラルの中でも瑞々しさと清潔感、精細なフローラルな甘さがあって大好きな香りです。洗剤などの日用品に多く使用されているのは知っていたけど、香水にもこんなに使用されているのは初めて知りました。同じミュゲの香りの香水なのにフローラルの甘さやグリーンな印象が香水によって違っていて、自分好みのミュゲの香水を探すのが楽しみになりました!!

シゲ

ミュゲの香りは香水や日用品でも頻繁に利用されている香調の1つです。清潔感と清楚な印象を与えるホワイトフローラルの甘さと瑞々しい印象を与えるグリーンが素晴らしいバランスを構成することでミュゲの香りが成り立っています。天然のミュゲはほとんど市場にはありませんが、香水や日用品では合成香料でミュゲの香りを再現しています。多くの香料会社が天然のミュゲの香りを再現するための新しい香料素材を開発しており、今も香料業界において非常に関心があるのがミュゲの香りなのです。

大切な人を幸せにすると言われるミュゲは、花だけでなくその素晴らしい香りも人を幸せにするフローラルです。
ぜひ、自分の好みに合うミュゲの香りを表現した香水を探してみて下さい!!

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参考文献

  • 中島基貴 偏著 『香料と調香の基礎知識』産業図書 1995年
  • 日本香料協会 『香りの百科』 朝倉書店 2009年
BIRTHDAY FRAGRANCE

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