Fragrance (香料)

天然香料 〜みんな大好き自然の香りPart-1〜

シゲ

こんにちは!! 香料研究者のシゲです。
今日は皆さんが大好きな自然な香り、つまり『天然香料』についてご説明致します。
楽しく、一緒に勉強していきましょう♫

天然香料とは

天然香料は、様々な植物や一部の動物から抽出された香料のことです。現在では、動物愛護の観点から動物から抽出された香料が使用されることはなく、ほとんどが植物から抽出された精油(エッセンシャルオイル)や樹脂(レジン)が使用されています。

動物から得られる天然香料としてはマッコウクジラの腸内で出来る結石から取れる竜涎香(アンバーグリス)、ジャコウジカの香嚢から取れる麝香(ムスク) 、ビーバーの香嚢から取れる海狸香(カストリウム)、ジャコウネコの香嚢から取れる霊猫香(シベット)があるのですが、現在では動物愛護の観点からほとんど使用されることはなくなり合成香料によって代替されています。しかしながら、竜涎香(アンバーグリス)だけはクジラを傷付けることなく、偶然に体内から排出された結石から香りを取ることが可能です。回数はとても少ないのですが、海岸に打ち上げられたアンバーグリスの結石が発見されたというニュースが海外で報道されることがあります。

近頃は、精油(エッセンシャルオイル)を販売してるお店が身近にあるので多くの方々が天然の香りを気軽に楽しめるようになりました。オレンジやライムといった柑橘系、ローズやジャスミンといったフローラル系が有名ですが、ティーツリーやラベンダーなど様々な種類があり、好きな香りを個人で気軽に選ぶことが出来て、私も含めて香りが好きな人にとっては非常に嬉しい限りです。しかしながら、植物由来の天然香料は素晴らしい香りで我々を魅了してくれるのですが、実は以下のような弱点もあるのです。

天然香料の課題
  • 非常に高価 (例 : ブルガリア産ローズオイルは数百万円/kg)
  • 採油率が悪い (花びら5000kgから精油1kgが取れるかどうか)
  • 産地やその年の気候によって品質や収穫量が変わる
  • 収穫の時期が限られている

天然香料は、以前よりも簡単に購入出来るようになって我々の生活にも身近なものとなりました。一方で、気候変動やその影響による収穫量の不確実さから生産農家や産地が減少しているという問題にも直面しています。この問題に対して多くの香料会社は、生産農家の保護や適正価格での取引(フェアトレード)を推進すると共に環境保護の取り組みも実施しています。我々も天然香料がもたらしてくれる自然な香りを楽しむと共に、環境保護や自然と共生するESGの視点を少しずつ取り入れていくべきだと思います。

天然香料の作り方(抽出方法)

シゲ

素晴らしい香りで我々を魅了してくれる天然香料ですが、どのような方法で作られているのでしょう?

圧搾法(Expression, Cold Press)

得られる天然香料の形態
  • 精油(エッセンシャルオイル)

原始的な方法です。そう!! 「圧力を加えて搾る」ことで天然香料の精油を得ます。
具体的な例は、生グレープサワーでグレープフルーツを搾るイメージです。
オレンジやグレープフルーツ等の果肉や果皮を押し潰すと出てくる液体が精油そのものです。柑橘系は、精油を蓄えている油胞(溜める袋のような構造)がハーブや花類の油胞よりも非常に大きいので圧搾するだけで簡単に精油を抽出することが出来ます。

圧搾法の利点としては、熱の影響を受けないのでデリケートな香料成分を損なうことなく新鮮な香り成分を得ることが出来るのです。なので、主に柑橘系の天然香料を取り出すときに利用されています。
例 : オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ライム、ゆず

実際、オレンジの精油はオレンジジュース用に果肉の部分を搾った後の果肉と果皮をさらに利用しています。初めにオレンジジュース用に果肉のみを搾りフレッシュジュースを取り出します。そして、残った果肉と果皮の部分からオレンジ精油を得て香料などに使用しています。柑橘類の果皮は、「ゼスト(Zest)」と呼ばれ食品の風味付けするために使われたりと柑橘類は余すところなく利用されています。

水蒸気蒸留法(Steam Distillation)

得られる天然香料の形態
  • 精油(エッセンシャルオイル)
  • 蒸留水(フローラルウォーター)

天然香料の抽出法として、最も一般的で効率的な抽出方法です。
『蒸留』は、アルコール度数の高いお酒を製造するために開発された手法です。互いに混ざり合わない2種類の液体を加熱すると、蒸気圧の和が全圧となり、それぞれの物質の沸点よりも低い温度で沸騰する原理を利用した抽出方法です。

Figure of Distillation
Picture from Tea-Tree Forest
水蒸気蒸留の原理 (出典 : Tea-Treeの森)
  1. 抽出したい原料植物を蒸留釜に入れて、そこに水蒸気を吹き込みます。
  2. 水蒸気を送り込むと実際の沸点よりも低い温度で植物中にある天然香料成分を遊離、気化して一緒に上昇します。
  3. この気化した天然香料成分と水蒸気が冷却層で冷却されて液体に戻ります。
  4. 天然香料成分は油性で水には溶けないので、2層に分かれた状態で溜まります。
  5. 天然香料成分は一般的に水よりも軽いので、上層部が天然香料の精油(エッセンシャルオイル)として利用されます。

水蒸気蒸留で使用した水は、『芳香蒸留水(フローラルウォーター)』と呼ばれ、利用されています。フローラルウォーターの中には水溶性成分でアルコール類が多く含まれており、油溶性の精油とは異なる天然香気成分を多く含んでいます。フローラルウォーターは水蒸気蒸留によって得られる精油の副産物で、ローズのような高級な花では『ローズウォーター』として天然精油とは別商品として販売されています。

水蒸気蒸留法は、比較的安価な装置で出来る古くから利用されてきた蒸留方法です。しかしながら、原料植物が熱と水に長時間晒されてしまうのでデリケートな香料成分を含む植物では利用出来ない場合もあります。

油脂吸着法

得られる天然香料の形態
  • 精油(エッセンシャルオイル)

油脂吸着法は、非常に古くから利用されてきた抽出方法です。豚や牛の獣脂を使って香料成分を吸着させて取り出します。女性の皆さんが嫌いなタバコの臭いが髪につきやすいのは、頭皮の脂に匂いが吸着することが原因で、油脂吸着法は同じ原理を活用した抽出法なのです。香水で有名なフランス グラース地方では、1900年頃からおこなわれてきた歴史のある抽出方法ですが現在は溶剤抽出法が主流となってしまったので商業的にはほとんど利用されていない状況です。

油脂吸着法は、ガラス板に豚脂(ラード)や牛脂(ヘット)などの動物性の獣脂を塗り、そこに原料植物を埋めていきます。しばらく放置して香料成分を脂に吸着させたら、また新しく原料植物を埋めてこれ以上香料成分を吸収出来なくなるまでほぼ毎日、約1ヶ月繰り返していきます。何度も繰り返し作業することで香料成分が多量に含まれた「ポマード」と呼ばれる獣脂が出来ます。このポマードにエタノールを加えて香料成分をエタノールに移した後、エタノールを蒸発させることで精油(エッセンシャルオイル)を得ることが出来ます。

油脂吸着法は、抽出に使う動物性の獣脂の状態による2種類の方法があります。

アンフルラージュ(冷浸法)

豚脂や牛脂を低温で固形のまま使用して抽出する方法です。水蒸気蒸留法の熱で壊れてしまうようなデリケートな精油(エッセンシャルオイル)を抽出することが出来ます。
例 : ジャスミン、チュベローズ

マセレーション(温浸法)

60~70℃の高温で溶かした液体のま豚脂や牛脂を使用して抽出する方法です。抽出する獣脂の状態以外は、アンフルラージュと同様です。
例 : ローズ、ネロリ、バイオレット

溶剤抽出法(Extraction)

得られる天然香料の形態
  • コンクリート(Concrete)
  • レジノイド(Resinoid)
  • アブソリュート(Absolute)

溶剤抽出法は、石油エーテルやエタノールなどの有機溶剤に原料植物の花などを漬けて香料成分を抽出する方法です。身近で近いイメージは、ドライクリーニングで皮脂汚れや醤油などのシミを取り除く原理によく似た方法です。水蒸気蒸留の熱や圧力、水分などの影響で香料成分が壊されてしまうデリケートな植物の抽出に利用されています。
溶剤抽出法では、大きく分けて3種類の形状の精油が得られるのでみていきましょう。

コンクリート(Concrete)

原料植物の花等にヘキサン等の有機溶剤を加えて香料成分を常温で攪拌抽出した後、抽出溶媒を減圧して取り除いたものを『コンクリート』と呼びます。バターのような形状で、香料成分だけでなくワックス成分も含まれています。樹脂成分は含まれていません。
アブソリュートを製造するための原料として利用されています。

レジノイド(Resinoid)

樹脂等の原料植物から香料成分をエタノールで抽出し、不溶解物を取り除いた後にエタノールを除去して作られます。樹脂、動物性原料などの抽出に使われています。コンクリートと違うのは、樹脂成分を含んでいることです。レジノイドの特徴としては保留性が高いことで、化粧品などの香りに使用されます。
例 : ベンゾイン、エレミ

アブソリュート(Absolute)

アブソリュート(Absolute)は、先述のコンクリートをエタノールに加熱溶解して再度抽出を行った後、溶液を−20℃以下に冷却してワックスなどの不要成分を取り除いた後、エタノールを除去して作られます。
アブソリュートは水蒸気蒸留のように熱や水の影響で有用な香料成分が損なわれることが少ないので、高級な花の精油を製造するために利用されることが多い抽出方法です。
例 : ローズ、ジャスミン、チュベローズ

精油(Essential Oil)とアブソリュート(Absolute)は区別されることが多いです。理由としては、自然な状態で香料成分を取り出していないや抽出方法や成分が違うことが判り易くするためです。
例えば、天然ローズには下記の3種類があります。
・ローズオイル (水蒸気蒸留、エッセンシャルオイル)
・ローズウォーター (水蒸気蒸留)
・ローズアブソリュート (溶剤抽出法)

アブソリュートは水蒸気蒸留のように熱や水の影響で有用な香料成分が損なわれることが少ないので、香りのみを比較するとアブソリュートが最も上品で美しい天然の香りを再現していると思います。

超臨界抽出法(Supercritical fruid extraction, SFE)

得られる天然香料の形態
  • 精油(エッセンシャルオイル)

超臨界抽出法は、1970年代に見出された精油(エッセンシャルオイル)の抽出方法の1つです。開発された当時は革命的な抽出方法として大きな注目を集めましたが、コストが非常に掛かることや特殊な設備が必要となるので期待されていたほど普及はしませんでした。

超臨界抽出では、臨界温度と臨界圧力を超えた超臨界状態にある二酸化炭素が抽出溶剤として利用されます。二酸化炭素の臨界点は、約31℃、72.9気圧と比較的低く、毒性がないことや無味無臭であること、安価であることなどから抽出溶剤として非常に適しています。また、超臨界状態の二酸化炭素は液体と気体の両方のメリットを兼ね備えているので、香料成分を強く吸着することが出来るという特徴があります。
このような特性があるので、超臨界抽出は自然の植物に存在している状態に極めて近い状態で繊細な香りを持つ上質な精油(エッセンシャルオイル)を得られる手法として知られています。

超臨界抽出は、近年も香水やアロマセラピーなどに使用する精油(エッセンシャルオイル)を作るために利用されている抽出方法です。
現在では超臨界抽出された天然香料素材が増えてきており、より上質で繊細な自然の香りを再現していると思います。

例 : カルダモン、ジャスミン、ピンクペッパー、クローブバッド、コーヒーなど

まとめ

天然香料まとめ
  • 天然香料は、現在は植物性の天然香料がメインとして利用される
  • 天然香料の課題は、産地や気候が生産量に影響して不安定なこと
  • 香料会社は、現地農家の支援やフェアトレードを通して貢献している
  • 天然香料は、植物に適した抽出方法を選択して製造されています
  • 精油(Essential Oil)とアブソリュート(Absolute)の違いを理解して使用しましょう!!
シゲ

お疲れ様でした♪
天然香料には沢山の抽出方法と形状がありましたね。
ローズオイル、ローズウォーター、ローズアブソリュートの嗅ぎ比べて好きなモノを選ぶなどしてみましょう!!
次回は、オレンジやローズ、フランキンセンスなど天然香料の種類について一緒に勉強しましょう⭐️

BIRTHDAY FRAGRANCE

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