前回は薔薇の香りについて詳しく教えて頂いたんですけど、花の香りって他にも沢山ありますよね・・・。
実際の香水や日用品で薔薇以外にどんな花の香りが使われているんですか?
こんにちは!! 香料研究者のシゲです。
今回も花の香りの中で香水や日用品に頻繁に使用されている『3大フローラル』に関してお話しします。
花の香りは多種多様ですが、香水や日用品の香りとして主に使用されるのは『3大フローラル』なので、まず初めにこれらの特徴を覚えてしまいましょう。『3大フローラル』を理解していれば、ほとんどの香水や日用品の香りを評価出来る様になります!!
今回は、魅惑のホワイトフローラル『ジャスミン』の香りについてです。
3大フローラル 『Jasmine (ジャスミン)』
Jasmine (ジャスミン)について
フローラル香は花様の柔らかさと甘さのある香りで、Rose(ローズ、薔薇), Jasmine(ジャスミン), Muguet(スズラン)が『3大フローラル香調』と呼ばれ、香水や日用品の香りとして多用される香調です。
女性が好きな香りと言えば薔薇ですが、ジャスミンは白い花を想起させる『ホワイトフローラル』の代表的な香りです。爽やかで瑞々しいスズランの香りも同じくホワイトフローラルの香りですが、ジャスミンの香りはホワイトフローラルに特徴的な爽やかで綺麗な印象と豊潤で重厚な花の甘さが感じられます。
香水、日用品でもジャスミンの香りの製品は沢山あります。中国や台湾ではジャスミンティー(茉莉花茶)つまりお茶の味付け(フレーバー)としてもジャスミンの花弁が利用されています。しかしながら、天然のジャスミンアブソリュートは非常に高価なので、多くの香水や製品では合成香料が代替として使用されています。
Jasmine (ジャスミン)
分類 : モクセイ科ソケイ属
品種 : Jasminum grandiflorum, Jasminum sambac
産地 : 中国、エジプト、モロッコ、インド、(フランス)
種類 : エッセンシャルオイル、アブソリュート
成分 : Benzyl Acetate, Methyl jasmonate, Indol
Jasmine Absolute (ジャスミンアブソリュート、天然)
『Jasmine (ジャスミン)』には数百種の品種があると言われているが、ほとんどが観賞用として栽培されています。ジャスミンのほとんどは白色または黄色の花を咲かせます。ジャスミンはその甘い香りから女性の美しさを表す花言葉として『愛想の良い』『優美』や『柔和』といった意味が含まれています。
この様に女性の美の象徴でもあるジャスミンは古くから栽培されていて、ソケイ(素馨、中国名 : 素馨花)やマツリカ(茉莉花、中国名 : 双瓣茉莉)は芳香が強いことから香水用途やジャスミンティーへ利用するために栽培が盛んにおこなわれてきました。香料用途で使われるジャスミンの品種は下記の3種類がほとんどです。
- 学名 : Jasminum officinale
- 英語名 : Common Jasmine
- 日本名 : ソケイ、シロモッコウ
- 特徴 : 一般にはこの品種をジャスミンと呼ぶ
- 学名 : Jasminum grandiflorum
- 英語名 : Royal Jasmine, Spanish Jasmine
- 日本名 : オオバナソケイ
- 特徴 : 花弁が大きく、フランスで香料用に栽培
- 学名 : Jasminum sambac
- 英語名 : Arabian Jasmine
- 日本名 : マツリカ、マリカ(茉莉花)
- 特徴 : ジャスミンティーに使用される品種
『Jasmine (ジャスミン)』の香りの主成分は、Benzyl Acetate (酢酸ベンジル)です。この成分は、ジャスミンの花様の甘さと共に蜜の様なハニーな印象とフレッシュなグリーン様の印象も併せ持っています。ハチ類を誘引するフェロモンの1種で、クチナシやイランイラン等の他の花にも含まれている香り成分です。
ジャスミンの香りに寄与している成分として、『Methyl Jasmonate (ジャスモン酸メチル)』があります。この成分は、植物防御や発芽、根の伸長、開花といった過程で植物の中で生合成される揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds, VOC)です。ジャスモン酸メチルは、ジャスミンの花弁から得られるジャスミン精油に実際に香気成分として含有されています。また、ジャスミンの香りを特徴付ける独特な香気成分として『cis-Jasmone (シス-ジャスモン)』があります。どちらもホワイトフローラル様の甘さがあり、Lactone様の重厚な印象と共にGreen, Woodyな印象が感じられます。cis-Jasmoneは工業的生産方法が未だに確立されていないので、自然の花から抽出して精製する方法となるため非常に高価な香料素材です。
他にもジャスミンの香気成分としては、IndolやSkatolの様な悪臭としても知られている化学物質が挙げられます。IndolやSkatolはそのまま嗅ぐと不快な便様の臭いがしますが、希釈すると花様の香りとなり他の香気成分の香りを補強してボリュームのある花の香りを演出するのを助ける働きがあります。
ジャスミンは非常に貴重なため、香料成分を溶剤抽出することでアブソリュートを得て香料用途として使用しています。ジャスミンの花は夜に咲き始めるので、花弁が開ききった最も香りが良くなる早朝に人の手で摘み取られます。その後、有機溶媒で抽出した芳香を持つWax状のコンクリートを経て、ジャスミンアブソリュートとなります。ジャスミンは採油率があまり良くはないので、約1000kgの花弁からアブソリュート1kg程しか得られないので非常に高価な素材です。
ジャスミンの主な産地としてはエジプトやモロッコ、インド、中国があります。以前は、南仏グラースで品質が非常に良いジャスミンが大量に栽培されていました。しかしながら、現在では香水用途用に限定的に生産されているので、生産量が非常に少なく希少なため非常に高価です。そのため、南仏グラース産のジャスミンアブソリュートが使用出来るのは限られた香水のみとなってしまっています。
ジャスミンアブソリュートが使用されている香水には、Jean Patou社のJOYやCHANEL社のGABRIELLEが挙げられます。
まとめ
- 3大Floral香(Rose, Jasmine, Muguet)の1つ
- ホワイトフローラルの代表で、豊潤な甘さがある魅力的な香り
- 分類 : モクセイ科ソケイ属
- 品種 : Jasminum grandiflorum (香水), Jasminum sambac (Tea)
- 産地 : 中国、エジプト、モロッコ、インド、(フランス)
- 種類 : エッセンシャルオイル、アブソリュート
- 成分 : Benzyl Acetate, Methyl jasmonate, Indol等が香りに寄与
ジャスミンの香りってホワイトフローラルの中でも豊潤な甘さがあるから大好きな香りです。香水に使用されているのは知っていたけど、ジャスミンティーにも天然のジャスミンの花弁が使われているのは初めて知りました。中国や台湾に旅行した際にはしっかりと味わいたいと思います。
ジャスミンの香りは香水や日用品でも頻繁に利用されている香調の1つです。日用品では天然のジャスミンアブソリュートを利用することは難しいですが、最近では精油として販売されているので香水と同様に簡単に楽しむことが出来ます。ジャスミンアブソリュートを試香または購入する際には、薔薇の品種や産地を確認すると香りをより楽しむことが出来ますのでぜひ挑戦してみて下さい!!
香水の産地である南仏グラースでは、今も天然ジャスミンが製造されいます。特に、CHANEL社の香水のためだけに作られるジャスミンアブソリュートは他の香水では真似の出来ない豊潤で重厚な花の甘さを付与して女性等を魅了しています。
CHANEL社の天然香料に関する動画には下記のリンクからアクセス可能ですので、CHANEL社の優美な天然香料の世界を堪能してみて下さい。
実際、香水や日用品でジャスミンの香りを表現するには合成香料を使うことが一般的です。このジャスミン香調を有する合成香料に関しては、また別の機会にお話しをしたいと思います。
参考文献
- 中島基貴 偏著 『香料と調香の基礎知識』産業図書 1995年
- 日本香料協会 『香りの百科』 朝倉書店 2009年